傷恋(キズコイ)
最初、名前を聞いただけではその人物の顔も思い浮かばなかった。

彩と一緒にいる彼を見た時、軽く彩に失望したけど、すぐにそれは彼への嫌悪感を強くしただけだった。

なぜあの彩が彼の傍にいる事を望んだのか。

『榊征也』という人物は僕の中で一番嫌いなタイプに分類されているから。

軟派な彼の周りには似たような軟派な男か派手に着飾った女ばかり。

そんな彼にどうして彩が?

知的で清廉。
その容姿は古臭いけど、まるで白ユリのよう。

そんな彩がなぜ榊なんてヤツと。

僕には理解出来なかった。





榊と付き合っていても、僕に対する彩の態度は変わらない。

それだけが救いだった。

けれど、榊の隣にいる彩を見る度に心は痛む。

どうして彼女の隣にいるのは僕ではないんだろう。
あの笑顔はなぜ僕のものではないんだろう。

彩に対してなんの行動もしなかった自分が情けなくて腹立たしくもなるが、友人の一人である今の関係を崩すのが怖かった。

それぐらいなら、今の関係の進展など望まない。

今までも、これからもずっと変わらず彩を見ているつもりだった。
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