傷恋(キズコイ)
それなのに。
就活も終わりに近づいた頃。

彩が榊と別れたと耳にした。

彩と榊。
この組合せで目立たないはずがない。

その二人が破局した噂は瞬く間に広がった。

噂を気にした風もなく、いつも通り明るい笑顔の彩に心が痛む。

あの笑顔の下で彩が泣いてるように思えるから。

そんな彩を少しでも慰めたくて、僕はなけなしの勇気を持って彼女を大学のカフェに誘う事に成功した。

恋愛経験の乏しい僕は、慰めたくても彩を癒す言葉を持ち合わせていなくて、結局いつも通りの堅苦しい持論を展開していた。

それにいつもと変わらない受け答えをしていた彩が突然涙を零し、僕は慌てふためく。

僕が彩を泣かせてしまった。

何が悪かったのかもわからないまま、オロオロする僕に涙を拭った彩が困ったように笑いかけた。

「ごめん…。何だか嬉しくて…。みんな腫れ物に触るようにしてるのに矢野くんだけはいつも通りで…そんなの久しぶりで…」

本当は僕が君を慰めたいのに。
泣いてる君を前に何も出来ず、反対に僕が慰められている。

「僕は…優しい言葉の一つも持ち合わせていないから…」

口の中で呟く僕に、彩は首を振った。
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