傷恋(キズコイ)
「優しい言葉にはもう飽き飽き」

キッパリとそう言って立ち上がる。

「ちょっと歩こうか?」

僕に異論はない。
彩がそうしたいのならいくらでも付き合う。

頷いて席を立った僕は彩と並んでカフェを後にした。





こうして一緒にいても、やっぱり僕は気の効いた言葉もかけれず、時折、彩の横顔を盗み見て『綺麗だ』なんて俗な事を考えていた。



薄暮に包まれつつある並木道にさしかかった時、彩の足が止まり、僕も足を止める。

「矢野くん…。泣いちゃってもいいかな?」

僕を仰ぐ彩の目には、もう一杯の涙が浮かんでいた。

気の済むまで、悲しみが薄くなるまで泣けばいいよ。

言葉には出来なかったけど、そんな気持ちを込めて静かに彩の肩に触れると、小さく笑って僕の胸に頭を預けた。

泣く時まで笑うのか。

僕はそんなに悲しい笑顔は今まで見た事がない。

肩を震わせ声を殺して泣く彩に、改めて榊への怒りが湧く。

今だ心の傷が癒えず、こんな僕の胸を借りてまで泣いてるんだ。

どうすればこんなに悲しませられる?
彩の何がダメだったんだ?
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