傷恋(キズコイ)
この子が何を言っても、もう事は進んでしまっている。

神崎結衣がどう行動するかにもよるが、僕の知ってる榊なら彼女を簡単に捨てるんじゃないか?

それならあんな男に今後の人生を託すなんて無駄だ。

きっと彼女のためにもなるはず。

そう思う僕をこの子は間違ってると言う。

世の中、正しい事ばかりがまかり通る訳じゃない。

それをこの子に思い知らせてやりたい。

どんなに傷ついてもまだ正論を吐けるかな?

誰だって自分が可愛いに決まってる。

僕の暴挙に泣いて懇願するといい。

『私が間違ってた』

その一言が聞きたいから。



僕を見つめる真っ直ぐな瞳が静かに閉じられる。

どうしてこんなに冷静なんだ?

何をされるかわかってるんだろう?

この子に恋愛感情なんてない。

だけど、僕の心をかき乱す君はある意味特別な存在だ。

最後までそうでいられるかな。

仄かな期待と、予想通りの失望と。

君は僕にどちらを与えてくれるだろう…。
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