傷恋(キズコイ)
「幸せそうに寄り添って笑顔でいる君達を…と言うか君を見て驚いたのと同時に腹立たしくてね」

そう、あの日の君達の幸せそうな様子は彩の涙の上に成り立っている。

それを君は思い知るべきだ。

「人の幸せが妬ましいのか?」

悪びれず笑みまで浮かべる榊に、一瞬我を忘れるほどの怒りを覚え、鋭く睨み付けた。

「…君と別れた南方さんが、あの後どんなに沈んでいたか知ってるかい?」

僕の腕の中で泣いた彩の、震えてた身体が思い出される。

「じゃあ、お前が慰めてやればよかったろ?俺の後釜に座る絶好のチャンスだったぜ?」

僕は当事者じゃない。
なぜ、彩と榊が別れたのかは二人にしかわからないだろう。

だけど、この榊の発言を許す事が出来なかった。

「僕はそんな卑怯じゃない!」

榊は僕の怒鳴り声に怯む様子もなく、初めて怒りを込めた視線を向けた。

「人のオンナを騙し討ちして傷つけるのは卑怯じゃねーのかよ」

そんなに神崎さんが大事なのか?
彩は…あんなにも君を想っていたのに…。

せめて、神崎さんに向ける優しさの何分の1かでも彩に向ける事が出来なかったのか!?
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