傷恋(キズコイ)
「あの子…神崎さんは…すごく幸せそうで、いい顔してた。本来ならあんな顔をして君の横にいるのは南方さんだったはずだ」

僕はただ彩が幸せであればよかったんだ。
相手が僕の大嫌いな榊であっても、彩が笑っていられればそれでよかったんだ。

それを願って何が悪い!?

「お前、歪んでんな。自分の惚れたオンナが他の男に笑顔向けてていいだなんて。それほど惚れてんなら自分でそんな顔させてやりゃいいじゃねーか」

正論を吐く榊になぜか柏木純の顔がだぶる。

何だってこんな時に彼女の顔が浮かぶ?

「お前は自分が可愛くて傷つきたくないだけの臆病者だ」

今まで見て見ぬふりをしてきた事実を突き付けられて、僕は狼狽え、ごまかすために机を強く叩いた。

「君みたいな自信家に何がわかる!?何でも手に入れて気紛れに放り出しても許されるような君に!」

本当はわかってる。
僕の勇気のなさを彼のせいにしてる事。

彩に想いを告げる勇気がなくて、そのくせ彩を傷つけた彼を恨む事で自己を保とうとしていた。

だから僕は君が嫌いなんだよ。

知りたくなかったものを直視させられるから。
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