傷恋(キズコイ)
痛みで動けない僕に、次いで投げられた彼の言葉がとどめとばかりに僕の心を粉砕した。

「お前の大好きな彩な。今すっげーイケメンのカレシがいるぜ？」

彩に彼氏！？

彩がいつまでも榊を想って泣き暮らしてるなんて現実的ではないと承知している。

ただ僕の中の彩は榊以外に目を向けない一途な女性だった。

彩はちゃんと現実を歩いている。
いつまでも立ち止まって、つまらないしがらみに囚われているのは僕だけなんだ……。

榊が嫌いな事には変わりないが、一気に何もかもがどうでもよくなった。

僕を見下ろしていた榊が口を開く。

「じゃーな。もう会いたくねーから結衣に余計な事すんなよ」

「ああ……。悪かったよ…。神崎さんに…」

それでも榊に謝罪するのは僕のプライドが許さなかった。

榊は不満げな様子だったが、何も言わずに出ていった。

崩れた本の山に身体を預けたまま僕は泣いていた。

どうして泣いてるのか自分でもわからない。

殴られたところが痛いからなのか、彩の現実を知って悲しいのか、バカな思い込みで人を傷つけた事を後悔しているからなのか。

理由もわからず、僕は子供みたいに泣きじゃくった。
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表紙・目次

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