傷恋(キズコイ)
息を切らせて先生の部屋の前に立つと小さく何かが聞こえる。

これは…嗚咽…?

誰が泣いてるんだろう…。
先生が…?

私はそっとドアに手をかけるとゆっくりと開いた。

「先生…?」

声をかけるとピタッと止む。

ドアからは先生の姿がすぐに見えなくて、私は室内に足を踏み入れた。



うわー…。

昨日、せっかく片付けたのに結衣が暴れたよりもひどくなってる。

崩れた本の山に身体を預けるようにして、先生が座り込んでいた。

「……何か…用ですか…?」

その声は本当に小さくて、近寄ってはいけないんじゃないかと私の足を止めさせた。

「え……用って…言うか…」

「君は今日の講義を欠席してましたね。もう授業は終わりましたよ」

俯いて、どんな表情をしているのかわからないけど、何だか先生らしい言葉に再び足を前に出した。



「先生…!」

先生のワイシャツの胸元に点々と赤いシミ。

これって…血?

顔を上げた先生は、泣き腫らして真っ赤になっている目と、腫れた頬に、切れた唇の端は拭ったのか乾いた赤い筋があった。
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