傷恋(キズコイ)
「そんなにひどい顔をしてますか?」

私の表情に自嘲気味に笑った先生は、口を動かしにくいのかくぐもった声で話す。

「ハンカチ、冷やしてきます…」




急いで濡らしたハンカチを先生に差し出す。

「つッ…!」

思わず洩れた先生の小さな声に、周りを見回していた私は顔を戻した。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なように見えますか?」

「それは……あんまり…」

「正直ですね」

頬にハンカチを当てたままクスッと笑う。

「すいません…」

不謹慎だったかと謝る私に、先生が首を振った。

「謝るのは僕の方です。……昨日は…悪い事をしました…」

「それはもういいんです。…それより、さっき征也さんを見ました。ここに…来たんですね?」

「ええ。それでこの様です」

「征也さんが?」

先生と征也さんじゃ、喧嘩にならなかったんじゃ…。

「一発で許してくれましたよ」

一発は一発でも、かなり力の入った一発だったみたい。

「そう…ですか」

「神崎さんに伝えてもらえますか?『悪かった』と」

「自分で謝った方がいいと思う…」

「そうですね…」

そう言ったきり先生は口をつぐんだ。
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