傷恋(キズコイ)
私も先生の前に座り込んだまま、黙っていた。

重い沈黙が部屋を満たして、このままここにいてもいいのかなって思い始めた時、先生が口を開いた。

「冷やしてきてもらってもいいですか?」

温くなったハンカチを私に差し出して頼む先生の顔はひどかったけど、表情は今までと少し違うように見えた。

冷やしたハンカチを渡すと、先生は小さくお礼を言う。

「先生…」

私の呼びかけに返事はなかったけど、目が先を促す。

「どうして…征也さんが嫌いなんですか…?」

「僕と榊くん。合うと思いますか?」

それは……合わないだろなぁ…。

首を横に振る私に先生の目が笑う。

「他にも理由はあったんですが…今となれば…もういいんです」

詳しく説明する気はないようで、簡単に済まされてしまう。

でも、先生が私に答えてくれた事実が嬉しかった。

「先生と征也さんに何があったかはわからないけど…私は先生が好きなんです」

「…昔の事を引きずって、人を傷つけるような男を?止めた方がいいです」

「私は…それでも先生がいいんです」

「変わった人ですね」

先生は呆れたようにため息混じりに呟いた。
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