先生のお望みのまま
「う〜ん。どうすれば勝るんだろう?毎年あのおじさんにジャンケン負けてるね。」
いつも買うお馴染のあんず飴を食べながら笑い合う。
「希実はいっつもなかなかどれにするか決まらないね。」
「だって水飴がたくさんついてる方が得した気にならない?中身も大きいの選びたいし。そういう杏華ちゃんはいつも早いね。
あ、そういえば杏を選ばないのは、名前のせい?」
「ん〜?ふふふ。そう。昔からかわれたことあってさ。その時もう一生口にしないって言ったから何となくね。っていつの話だって。もう時効なのにね。」
さすが信念の人の杏華ちゃん。そんなこと言ったら私なんていくつも忘れているきめ事があるに違いない。
ブツブツ考えていたら、「あっちでちょっと休も。下駄で足が痛くなっちゃった。」急に杏華ちゃんが腕を引っ張って脇道に逸れた。
屋台が途切れたそこは小さな祠があるだけで、お祭りの喧騒から離れたちょっと非現実的な空間だった。
提灯の明かりがぼんやり届いているものの、お囃しや人のざわめきが壁一枚挟んだ向こうから聞こえているみたい。
「杏華ちゃん?」
「ちょっとお邪魔させて下さい。」
祠に手を合わせてから、近くの大きな石に二人で腰かけた。