先生のお望みのまま
「ありがとう。希実。」
杏華ちゃんは目をうるうるさせながらも笑顔なのに、そのきれいな表情が霞んで見えなくなる。うぅ〜。涙が勝手に溢れてくる。
「希実ぃ、泣かないでよ。」
ハンカチを出して杏華ちゃんが涙をふいてくれる。
杏華ちゃんは少し低い私の目線に合わせて、少し屈みながら
「だからね、今回競技に限界が見えた時、素直に辞めることを選択できたのも希実のおかげ。じゃなきゃ、まだ競技にしがみついて藻掻いて諦めて、スケートに良い感情持てずに終わってたかも知れない。そうなってたら私の今までの人生なんだったのかって、虚しくなってただろうね。」
曲げてた腰を伸ばした杏華ちゃんは数歩離れて、綺麗なスターティングポーズをとった。
「今でもスケート大好き。だからこれからは違う方向からスケートに向き合うんだ。」
クルリと見事に一回転をして、にっこり笑った。その曇りない笑顔に、あぁこれでいいんだ。これが杏華ちゃんの選んだ道なんだって胸の中にストンと落ち着いた。
だから私も笑顔で「頑張ってね。」って、今度は心から言えたんだ。