ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~





――芹霞ちゃあああん!!



自然とつぶった目の裏に…

拡がるのはまた黒ばかり。



ああ――

あたしは闇に包まれる。



もがいても、もがききれない闇の黒。

吸い込まれて、同化される懐かしい黒。



――芹霞ちゃあああん。



絶望的な闇に、息が出来なくなる。



そう、だから――。



 くくく、



泣きたくなるくらいのこの闇を――。



 くくくくく。



突如闇を割った笑い声に、目を開けた。



「笑い声……?」



理解できなかった状況が、次第に紐解かれていく。


櫂だ。


櫂が笑っている。


今までの熱さを消し去った、いつも通りのあたしの幼馴染。



「………」


ああ、そうか。

櫂は元から。




ダマサレタ。



「この……悪趣味っ!」





余裕だ。不敵だ。


泰然とした。揺ぎ無い構えを見せつける慣れた空気。


動揺していたのはあたしだけで。


櫂には唯――

気紛れの悪戯だったのだ。


その温度差に、やり場のない怒りを感じ…加えて羞恥心に顔が赤くなった。



櫂はそんなあたしに満足そうに笑いながら、身体を起こした。



「たまには……いいだろう?」


「はあ!?」


「いつもお前にやりこめられている可哀相な俺が、たまには反撃しても、さ」


そう、薄く笑った。
< 117 / 974 >

この作品をシェア

pagetop