ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




――知ったのだって昨日だし。



8時間ごとの進度で進むゲームのくせ、次の日に13章からなんてふざけるな。


対象が未定だったのは、本命を隠したかったからだろう!?



――あたしだって相手選ぶわよ。



俺以外を相手に選ぶのか、虚構(ゲーム)でも。



知らぬ処で、知らぬ男が跋扈する。


俺の手が届かぬ…とうとう虚構の男にまで目を向けるくせに、生身の俺にはまるで目もくれない。


振り返ろうともしない。

気にも留めない。


俺の方こそ、虚構というように。


俺から擦抜けて行く。




「…… くそッ」 



苦しかった。



心が無性に痛かった。



俺は此処に居る。


いつも一番近くで見ているだろう?

隣に居るだろう?


求めている。

欲している。


誰より強く…愛しているのに。



一体――

俺に何が足りない?


どうすれば、意識して貰える?


俺には、芹霞を惹きつける魅力がないのか。

芹霞を振り向かせる要素はないのか。



――あたし達は永遠なのよ。



いばら姫は、まだ眠ったまま。


そして俺は、いばらに傷つきながら、例え血を流し続けてでも。

今日も明日も芹霞の名前を呼び続けるのだろう。


血に染まる身体を抱え、戦(おのの)き震えるのだろう。



なんと――

気の遠くなる、惨憺たる現状。



それでも――。


「それでも俺は……」


目覚めるまで、

繰り返し叫び続けるしかない。



俺の姫は…

お前以外にはいないのだから。


昔も今も、この先も――。
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