ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「櫂がいいなら僕は反対はしない。決定権は櫂にある。
――というわけだ、芹霞」
芹霞は頷き、ソファに座り直した。
「……まずは、悪い知らせだよ、櫂。月曜日の御子神祭、主事が紫堂じゃなくなる」
俺よりも先に、芹霞が声を上げた。
「ええ!? じゃあ剣舞踊らないの? 凄く楽しみしてたのに。突然どうして?」
「元老院の決定なんだ」
「元老院?」
「元老院っていうのは、東京の最大組織……いわばそれ自体が東京というもの。東京が江戸と呼ばれる遥か前からね。
元老院の傘下に紫堂を含め、各界著名な名士がいる。元老院の決定は絶対的で、それに恩恵を被ってきた紫堂達は、逆らうことは許されない。逆らったが最後、即座に身包み剥がされ、一族郎党文無しさ。それで終われば可愛いものだろうけどね」
「……紫堂の上っていたんだあ」
「あははは。沢山いるよ。櫂の活躍で、大分少なくなってはきているけどね。
話戻すね。それで、その元老院が認めた新鋭(ルーキー)は御子神祭を主催し、巫覡(フゲキ)に据えられる。一般的な祭りというより元老院の力の誇示と忠誠を誓うための儀礼といった方が正しいのかもしれないね。
それで今年、初めて紫堂がその名誉ある役柄に抜擢されていたんだ。だけど……」
俺は目を細めながら斜めに玲を見る。
「……何故だ? 確約はとれていたはずだ」
「不自然に、紫堂に対する信用度が急落している」
玲の低い声音が響く。
――うざったいの嫌いなんだ俺。
「……氷皇の妨害か?」
玲は頭を横に振る。
「……御階堂。
彼らが主事になりそうだ」
言い難そうに、玲が口を開いた。