ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「ミカイドウって聞いたことあるけど…なんだっけ?」


場にそぐわぬ声を上げたのは芹霞。

眉間に皺を寄せて、うんうん唸っている。


やはりこいつは、あのいけすかない男の名前を覚えられないらしい。

喜んでいいのか、呆れたらいいのか。


「芹霞。ミカイドウはあいつだ。桐夏の生徒会長」


「……!」


思い当たったらしい。


「しかしあそこは、元来穏やかな家柄で、権力に固執する集団ではないだろう。それが何故突然」


「内紛……分家の下克上だ。昨夜、ね。

元々そういうキナ臭い噂はあったらしいのだけれど」


嫌な予感がする。


――会長と連絡つかなくて。


「分家……まさか」


玲は頷いた。


「桐夏生徒会長、御階堂充が首謀者だ」


鳶色の瞳を僅かに鋭くさせて。


「ただ……僕もどうしても腑に落ちない。一般の高校生としては優秀かも知れないよ。だけど櫂ではない。櫂に及ばない人間が、何故簡単に当主の座に、大体それを何故元老院が……」


「……元老院がどうした?」


「藤姫の空いた12人目の席に、

その生徒会長を据えるらしい」


くらり、と軽く眩暈がした。


「元老院に…なったのか!!?

あいつが!!!?」


「益々もって不可解だろう。事を急く理由」


「……あのね」


突如芹霞が会話に割って入ってきた。


「そういえば昨日、あの人変なこと言ってたの」


――僕はあるものを手に入れた。その力があれば、分家だろうと当主の座に着ける


「何だ……あるものって」


俺の問いに芹霞は頭を振る。


「そこまでは判らない。そしてね」


――今は紫堂が優位でも、この僕が御階堂を継げば形勢は逆転する。あの元老院だって認めざるをえない。それだけの力を手に入れた。


なんだ? 

この数日で元老院を動かせる何を手にいれたんだ?


それは突然だった。



――元老院の黒の書、何処にあると思う?



俺はそれに思い至ると、半ば呆然と目頭を指で押さえながら、ソファに仰け反った。



「……玲。黒の書は多分、御階堂の処だ」
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