ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「……ねえ、芹霞。芳香って、どんなのか判る? 調べてみたいんだ」
――薔薇の花の成分が極微量に。
「あたし弥生に連れられただけだから詳しいことは覚えてないな。つけても飲んでも風呂でもよしとかいう流行の……。ん、弥生に電話してみる」
芹霞は携帯を取り出し、その友達に電話をかけた。
だが電源が切れていたらしい。
「あれ? 寝てるのかな、怖い目にあって凄く混乱していたからね。ねえ、もう少したってからでもいい? メールは出しておくね」
頷く玲に、芹霞はその場でぽちぽちとメールを打ち始めた。
「…… そういえば、煌と桜、遅いな」
俺は時計を見上げながら呟いた。もう4時を回っている。
あの2人のことだから心配はないが、一体何をしているのか。
「先輩としての苦言かな」
玲は苦笑して頭を掻いた。
「……何かあったのか?」
「何かある前に、喝を入れたいらしい。僕はあまり乗り気ではないけど、最悪の事態に備えてと訴えられれば、拒否も出来ないしね」
玲は詳しくは話したくないらしい。
だから俺もそれ以上聞かなかった。
聞いてはいけないような、そんな気がしたから。
その時短い着信音が鳴った。
どうやら芹霞の携帯かららしい。
「弥生からかな……?」
携帯を広げて画面を見ていた芹霞の顔が、みるみるうちに曇っていく。
「どうした?」
「!!! な、なな何でもない。迷惑メール」
そう不自然な笑いを見せて、パタンと携帯を閉じた。
あからさま…俺から携帯を隠そうとする芹霞。
「あ、ああそうだ、玲くん。ぶり大根の作り方なんだけれど…」
「ぶり大根? ん、どうしたの?」
またもやあの短い着信音が響く。
携帯を開いて、ちらりと視線を落した芹霞。
「また迷惑メールだよ。……うわっきもい奴」
最後の、極端に声音を抑えた呟きを聞いた俺は、芹霞の携帯を思わず取り上げた。
騒ぐ芹霞を片手で押さえつけ、開けた画面に飛び込んできた差出人は見慣れぬアドレス。