ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├飼犬の立ち位置



煌Side
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――煌、品川で桜と合流して。


気に食わねえ。


――櫂にはベンツあるし、芹霞には櫂がいる。もう危険な目には遭わない。


本当に気に食わねえ。


玲が、俺よりもあのベンツの性能を良としたのも気に食わねえが、それよりも。


芹霞が心配で溜まらなくて、一刻も早く池袋の現場に赴いたのは、俺も同じなのに。


俺を擦り抜け、櫂に頼り切る芹霞の姿。


――ありがとう、櫂。


俺が手を差し伸べようとしている間に、芹霞は櫂の腕の中。


芹霞の目の先にはいつも櫂。

芹霞を抱きとめるのはいつも櫂。


俺じゃねえんだ。



――煌。芹霞には櫂がいる。



胸がぎゅっと締め付けられる、虚無感。

俺だけ弾かれたような、疎外感。


いつからだろう。


当然のように出来上がっているそんな風景を見るのが、無性に苛立つようになったのは。


俺も此処に居るというのに。

櫂だけじゃなく、俺だって居るのに。


そう言いたくても言えねえ…それがもどかしくて。


言えるわけねえだろ。


今更何よ?

何て言うよ?


"俺にぎゅうしろ"

"俺の中に飛び込んでこい"


馬鹿か、俺。
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