ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――ありがとう、櫂。
燻るような何かの感情。
不明瞭で輪郭の見えない…
それは余りにも気持ち悪く――
同時に余りにも切な過ぎる――
それはまるで――…。
――好きという気持ちがどんなものかだって?
「……はっ!!?」
冗談じゃない。
これならまるで――
――そうだな。狂おしい程…切ない、という感じかな。
俺が芹霞に…
惚れているみたいじゃないか。
だけど、あまりに苦しい胸の内。
日が沈んだ建物の硝子に写る俺の顔は、
櫂と同じような渇望に苦しむ表情をしていて。
狂おしい程切ない…
そんなように見えたんだ。
冗談じゃない。
芹霞は幼馴染だ。
櫂よりも短い期間の幼馴染だけど、それでも共に8年もの付き合いがある。
あいつとは昔から喧嘩ばかりしてきたし、緋狭姉からの怒られ仲間。
洟(はな)垂れ顔やら歯っ欠け顔やらの不細工顔を十分見慣れてきてるし、何よりしとやかな"色気"なんて全くねえ。
甘いものには目がなく、食い意地張っていて…後先考えずに飛び込む無鉄砲なガキだぞ!!?
あの緋狭姉の妹だぞ!!?
まあ…美人だけど。
男は寄ってくるけれど。
色気なくても胸はあるけど。
だけど、よりによってあの芹霞をなんて…俺、何とち狂ったことを考えている?
気のせいだ。
気の迷いだ。
ああ、だけど――
「……っ」
色々見えてくるものがあるんだ。
今まで住んでいた、芹霞と緋狭姉との家に居辛くなったわけ。