ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ああ? やる気か、この腐れ蜜柑!
てめえ、自分の立場判ってんのか!?」
桜は、俺の過去を多分知っている。
知らないはずないだろう。
今の俺の立ち位置は、元々桜が兼ねるものだったのだから。
その上で、こいつは俺を見下している。
当然だ。それが普通の反応だ。
「判りやすいって言ってんだっ!」
今度は脛を蹴りやがった。こいつの速度は半端じゃない。
道化師と良い勝負だ。
「だからてめえを芹霞さんの傍には置いときたくなかったんだよっ!いつも腑抜けてデレデレ鼻の下伸ばしやがって!」
腑抜けて?
こいつは何を言ってんだ?
俺は明らかに動揺していた。
「自覚してないわけねえんだろ、てめえ昨日だって、芹霞さんの櫂様への頭突き、止めることすらできなかったじゃないか。ズブの素人に完全毒牙を抜かれてどうするんだ、てめえッッ!!!」
喉が渇く。言葉が出てこない。
"自覚してないわけねえんだろ"
俺は、俺は――。
「優先すべきは櫂様だろ!しかもてめえ、櫂様が望んでもいないのに、芹霞さんを連れただろ!?
……ありえねーんだよ、そんな事態はッ!
芹霞さん犠牲にしても、櫂様の命に従い守り抜くのがてめえの務めだろうが!
そんなことだから道化師如きに2度も破れるんだっ!」
握り締めた俺の拳が、微かに震える。
「いいか!!? さっき玲様から聞いたが、御子神祭主事、櫂様は降ろされた」
何だって?
「……降ろされたって、どうことだ!?」
桜の双肩を掴んだが、すぐ桜に払われる。
「紫堂に不穏な動きありと提言した、藤姫に代わった新たな12人目の元老院の策略だ」
「誰だよ、そのふてえ奴は!?」
「…… 御階堂家当主、御階堂充」
ミカイドウ。
敵意が湧くその名は、記憶に1人だけ居る。
だけど――。