ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
だから同性の緋狭姉に相談した。
彼女は一笑した。
たかが一夜のこと、お前のような平和ボケした、幼馴染み如きが干渉するな。
詰るより何より、そうせざるを得ない状況に煌が居るということを、まず心配すべきだと言われた。
煌は櫂ではない。
あいつは流されるだけの…
傀儡(くぐつ)みたいな馬鹿だから。
あいつが『人間』を選びたいのなら、逃げ道くらいは残してやれ。
馬鹿は馬鹿なりに
必死――なのさ。
緋狭姉は――そう笑ったんだ。
「…一瞬、楽になるんだ」
「本当に一瞬…」
「逃げだって…判ってる。
だけど俺は……
逃げることしかできねえ」
澱(よど)む意識の向こうで、
煌が泣いているようにも見えた。
あたしは手を伸ばす。
「泣いちゃ嫌だよ?」
昔――
"感情"を知らない煌が
こみ上げるものを持て余していた時にしていた、切なくなる表情。
泣いているようにも見える、縋るような表情。
本人さえ気づかぬ、悲壮な表情。
あたしはそれを放っておけず
本気で心をぶつけ、本気で喧嘩して
傷だらけになって煌の荒い心を解いたつもり。
「泣いてねえって」
どうして今更――
昔と同じ対話をするのだろう。
何で昔のように
あたしを突っぱねるのか。
これは……
夢なのだろうか。