ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「悪ぃけど今…
……触らねえでくれるか?」
夢だとしたら――
何て悪い夢。
煌までもあたしから離れていく。
「どうして?」
「我慢…できなくなる」
震える小さな声が、聞こえた。
何を?
問うたあたしの呟きには、返る声はなかった。
微睡(まどろ)む向こう側がよく見えない。
「――煌?」
不安になった。
昔に、戻っているんじゃないか。
また、あの荒んだ目をしているんじゃないか。
何もかもに――
絶望しているような死んだ目。
また、彼は孤独を感じているんじゃないか。
「あたしが居るからね?」
ぼんやりとした向こうで…
煌がどんな表情をしていたのかもう判らない。
「……。ああ、そうだな」
ただ本当に眠くて。
煌がますます薄れていく。
「煌は1人じゃないからね」
あたしはまた繰り返し、意識を手放した。
「おやすみ、芹霞」
煌が辛そうに顔を歪めているのも知らずに。