ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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「……芹霞」


……うう、眠い。


「芹霞!」


眠いんだってば。


「朝だ、起きろ」


脳天に走る軽い痛み。


布団を抱き枕にして、ぐっすりと寝込んでいるあたしを、無情にも叩き起こした不届き者は、漆黒色の幼馴染だった。


「女の寝込みを襲うなんて最低」


詰る言葉は、すぐに切り返される。



「俺だからいいだろ?」



不敵に笑うその様に、甘い艶を滲ませて。


何だろう、その自信。


「だが……

俺以外の男には、そんな状況を作るな」


ベッドの縁に腰掛けると、今度は憮然と言い放つ。


あれ?

何だろう、櫂の雰囲気が…。


「……櫂、おしゃれしてる?」


紺の上質生地の背広姿で、水色のネクタイまでしている。


いつもはそのまま、乾かしただけでも艶やかなさらさらストレートヘアは、軽くワックスをつけて整えられていて。


元々櫂は、年齢不相応の…大人びた端正な顔をしているけれど、こうして学生らしからぬ格好を見れば、何処まで男の魅力を潜めていたのかと舌を巻く思いだ。


我が幼馴染の美貌は留まる所を知らず、洋服というオプションで倍増し以上に輝けば、さすがのあたしも目を瞠る。


思わずどっきりしてしまったじゃないか。



いつもの凛々しさに大人の男臭さが加わり、もうそれで完璧に完結した現代の…


とっぷり夢の――王子様。



夢の…。


夢…。



…………。



「おい、人と話している間に、堂々と寝るんじゃない」


ぴん、と額を指で弾かれた。


「あう」


痛みすら、半分夢現(ゆめうつつ)。


如何せん、眠いんだ。


そう。あたしはまだ眠くて、櫂の格好を気にしている余裕はないんだ。


自慢したいのなら、夢に出てきてくれ。


夢でお待ちしよう。

とことん褒めて、いい子いい子してやろう。


…………。


ぴん。


「だから寝るな」

「あう……」


こうなったら!!
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