ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



………。



ぴん。

ぴん。



「あうあうっ…」

「目を開けたまま寝るんじゃない」



今度はW(ダブル)できた。


駄目だ、櫂はしつこい。

この眠さを判ってくれない。


「俺はこれから紫堂本家に行く」


だからおめかししているのか、櫂は。


おめかししないと帰れない実家とは、一体どんなトコだと突っ込みたい気もしたけれど…。


眠い…。

 
「こんな朝からにゃにかあったの?」


駄目だ、噛んでしまった。

微睡(まどろ)みの中で喋るからこんな目にあう。


何でこんなに眠いのだろう。



ああ――

煌に起こされて……


…………。


でもあれは夢か。


煌があたしの手を拒むなんて

あんなの悪夢に違いない。


「親父から呼び出し食らった。気が進まないが、御子神祭の主事変更について叱られに行ってくる。今後について話してくるよ」


口許を歪めさせて笑う。


「それは大変ら~、がんばっれ。じゃ」


即、寝ようとしたあたしの頬を櫂が抓る。


「いらいいらいいらい…」


でもやはり、痛みは夢現(ゆめうつつ)のものになる。


本当にこの男は、あたしの頬を抓るのが好きらしい。


構ってる余裕はない。


あたしは眠いのだ。


眠いから、即効出て行って欲しい。


出て行ったら、あたしはもう一度ぐっすり寝てやるんだ。

至福の時間を満喫したいんだ。


だけど。

それが判っているらしい櫂は、中々出て行かず、依然頬を抓り続ける。


「朝って言ってももう11時。とりあえず玲を残していくから。何かあれば携帯鳴らしていいからな。

……それから」



ちゅ。



おでこに温かな

柔らかい感触。



続けて――

頬にも柔らかな感触。


あたしの耳元で

吐息と共に囁かれる声。


甘い甘い…熱の篭ったような声。



「……唇じゃないのは、

俺の理性に感謝しろよ」




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