ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


そして――

耳朶に熱く湿った感触。



熱い微かな溜息残し

かりっと噛みつかれた。



ゾクッ。


背筋に走る、甘美な痺れ。



小刻みに体を震わしたあたしに、

くすりとした軽い笑い声が届く。





「目覚めない奴には

     ――お仕置きだ」






今――






何しやがったこの男。






おでこに――




ほっぺに ――




耳たぶに――





ちゅう?




ちゅうだとッ!?





完全に目が冴えた。




「……~~ッ!!!」



枕を掴むと、笑いながら立ち上がった櫂に向けて投げ飛ばした。


だが櫂は、首を少し横に傾けるという最低限の動きでそれをかわし、そして枕の軌道は――



「…おい、櫂。もう…ぐはっ」



突然ドアを開けた煌の顔面に直撃した。


あたし枕は、そば殻派だ。


「ご、ごめん、煌」


両手を合わせたあたしと目が遭うと、煌は慌ててあたしから目をそらした。
 

何だ、この反応。


わざとか!!?

わざと無視(シカト)したのか!!?


櫂も訝ったらしい。


こうした理不尽な態度をされるのは許せない。

言いたいことがあるのなら、はっきり言え!!!


喧嘩上等。

言い淀(よど)んで流して終わるような、そんな関係じゃないはずだ。



「煌!!!!?」


思わず…諌(いさ)めるように声を荒げれば。


奴は、ぐぎぎぎと音が聞こえてきそうな…そんな不自然でぎこちない動きで、引き攣ったような笑い…らしきものを作った顔をあたしに戻し、やはり…ぎくしゃくと右手を上げ、


「や、やあ。我が幼馴染、ご、ごきげんよう」


訳の判らない言葉を吐いたんだ。


はああああ!!?


「……ふぅっ」


ドアの向こうでは、

桜ちゃんと思われる大きな溜息が聞こえた。
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