ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
├王子様の記憶
櫂Side
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ぞくり。
何だろう。
背筋に…嫌な悪寒が走った。
「………?」
それは――
嫌な予感にも似たもので。
俺は思わず目を細めて遠くを見て、足を止めてしまった。
丁度ひと仕事を終え、迎えに来たベンツに乗り込む時のことだった。
「どうしました、櫂様?」
桜が訝しげにこちらを見遣る。
「いや……何でもない。
……行こうか」
何気なく腕時計を見ると、3時15分前。
随分と紫堂本家に長居してしまったようだ。
東京都港区赤坂――。
かつて…銀座と並ぶ高級繁華街として栄華を極めたこの街に、紫堂本家はある。
何千坪もの敷地面積を持つ広さ故、鬱蒼とした木々で覆われた敷地が、個人の所有物だと知る者は少ない。
先代がこの地に純和風の建物を構えたのは、己が権威を誇示する為ではなく、この赤坂という土地が、元老院が棲まう場所の東南……"鬼門"に位置する為だと言う。
"魔の通り道"に家を建てるのもどうかと思うが、紫堂の特殊さを思えば、その思い切った決断は、あながち無駄ではなかったと思う。
それにより、元老院に忠誠心を証拠だてた。
それと同時に、紫堂の存在理由を確立させたんだ。
紫堂なら――
鬼門の悪影響も弾くことが出来ると。