ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



母親は体調を崩して家から出られないし、頼りにはならなくて。

俺にとって母親もまた…他人のように遠い存在だったから。


――うわああああん!!


紫堂において、親父の力があまりにも強すぎた為、俺の味方は誰もおらず、惰弱だなんだと蔑まれていた。


それは事実のことなれど…実の母親ですら、最後こそは俺を庇ったけれど、大概は知らぬフリをしていたんだ。


そんな女に、情など湧くはずもない。


そして父親に捨てられた俺は――

突然見知らぬ土地に放られて、これからの…あまりの不安さと心細さに、外で激しく泣きじゃくっていたんだ。


そんな時……


――あんた、随分泣き虫ね。


芹霞と出会った。


黒目がちの大きな目。

肩で切り揃えられた黒髪。


爽やかに整った可愛い少女。


季節は春。


桜舞い散るその季節……

桜の妖精だと思ってしまう程、

俺はその少女に目を奪われて。


その出会いは俺にとって強烈だったんだ。



――あたしは神崎芹霞。あんたの名前は?



その少女が隣に住んでいて、更に母親同士が幼馴染だったという…その出来すぎたまでの偶然に、俺は初めて…母親に対して感謝する気持ちが生じたと思う。



やがて早々に母親は病死し、

芹霞が母親代わりとなった。


芹霞の家族も、本当に俺を可愛がってくれたんだ。


俺は神崎家の一員のように愛されたんだ。



多分それが――

俺と芹霞の関係を拗(こじ)らせた原因だと思う。



芹霞の願う『永遠』は

母子のような清らかな情で



俺の願う『永遠』は

男女の激しい恋慕で。



それは今にまで至る…。

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