ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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俺が昔を思い出している間に、ベンツは環状7号線を抜けていた。


今日はいい天気だ。

車の冷房がなければ、背広というものは暑苦しくてたまらない。


上着を脱ぎながら、俺は声をかけた。


「……どうした?」


今日はいやに車内が静かだったから。


俺の横に座る桜と、助手席に座る煌が喧嘩していないからだ。


いつもは俺の横に座りたがる大男が、今日はなぜか桜に遠慮している。


紫堂本家に居る時もそうだが、顔を背けあっていた気がする。


桜というより、煌が一方的だった。

そういえば、行きもそうだった。


「別に」

「何でもありませんわ」



煌と桜は同時に答える。


俺は静かに目を細めた。


昨日、桜の様子がぴりぴりしていて、今朝になったら煌の様子がおかしくて。


いつもなら、桜が怒って煌を殴り…それで終わるものが、今回はやけに尾を引いている。


何があったんだろう。


この…びりびりとした空気は尋常ではない。



ちくっ。



その空気に――

僅かな頭痛を感じた。

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