ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
弥生ちゃんの環境異変が、"格闘パート"に入ってからというのであれば。
「桐夏では…ほぼ全員が格闘パートに入っている状況なの?」
つまり、ほとんどが血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)化しているのならば、その予兆は…同じ桐夏に通う2人に"異変"として感じ得ないものなんだろうか。
欠席としてではなく、日常生活の中で。
「え!!? あ、いや…櫂の"キーワード"ないから、ずっとあたし追いかけられてたんだから、進んでいる子はいないと…」
「キーワード?」
「あ、うん。櫂のプライベートのことに関するキーワードが判らないと、前半の恋愛パートが進まないらしいの。弥生はズルしたから早いけれど。櫂を攻略キャラにしている子達は、弥生以上に進んでいないと思う」
櫂に限定すれば進行は難しくても、他のキャラなら、既に格闘パートに入っている可能性はある。
しかし芹霞を追い回した多くの女生徒達が、皆が皆、短時間で"キーワード"やらを獲得して格闘パートに移行しているとは考え難いし、尚かつ芹霞を追い回す元気があって、即レスがないというのもおかしな話。
自我を保っていられる状況なら、食らいついてきそうなものだけれど。
「あ、玲様。"不定期メール"!!! キーワードなしで最大3章まで進める特別メールが、昨日配信されたから、きっとかなりの子が、格闘パートに進んだはず…ああ、キャラメールとは違うものです」
不定期メール…。
"イベント開催"告知のようなものか?
それにより、格闘パートに進んだ子が、急激に増えたのだとしたら?
「確かに…芹霞のメールに対する即レスの可能性は低くなるな」
状況証拠から当てはめれば、ゲーム愛好者が血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)だという推測は成り立つような気はする。
「ん………」
「玲くん……?」
そして…薔薇の芳香。
僕には――
匂いがしなかった。