ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「関係ないよ」
僕は笑ってズボンのポケットから小さなUSBメモリを取り出し、パソコン背面の差し込み口にそれを差した。
メモリは当初赤い色を点滅させていたが、やがて青く光ると、画面が早送りのように急いで動き出し、デスクトップ画面が表示される。
「「え!?」」
女の子2人は驚いた声を出して、互いに顔を見合わせている。
「僕の作ったプログラムが組み込まれているんだ。簡易版だけどね。ある程度のセキュリティホールなら破れる」
それが個人の域を出ないパスワード管理なら尚更。
「……内緒、ね?」
僕は唇に人差し指を当て、笑ってお願いする。
ブラウザのアイコンをクリックした時、
「ごめんなさい、来月に…ネット無線にする予定で…今は有線のADSLで。ええと…線はどうやってこっちの部屋に…」
そんな惑うような弥生ちゃんの声が聞こえたけれど、
「問題ないよ。このメモリに、無線モデム内蔵してるから」
画面にはyahoo!が立ち上がり、アドレスバーに1つのアドレスを入れる。
突如画面は黒いものとなり、白いカーソルだけが点滅始める。
「どうしたの?」
芹霞が心配そうに訊いてくる。
「うん、家にある僕のメインコンピューターに接続したんだ。その認証に多少時間がかかる」
芹霞はぽかんと口を開けている。
芹霞はあまり機械を詳しく知らないから、これ以上の説明は無用だ。
そして画面に表示されたのは、
『ACCESS OK』の文字。
「よし、接続出来る」
僕はカタカタとキーボードを打つ。
「本当に……玲くん、意外」
芹霞の呟きが聞こえる。
「何が?」
「オタクっていう気しなかったから」
僕は依然手を動かしたまま、笑った。
「さっき僕のこと…電脳オタクって言ったじゃないか」
「煌が前に言ってたから…」
煌。
お前、裏で芹霞におかしな単語使うなよ。
…僕が否定できない単語を。