ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



ゾンビも食われればさすがに"痛み"を感じるのか…地鳴りを彷彿させる、おかしな擬音語を低く奏で、悲鳴らしき…ものも漏らしている。



泣きたくなってきた。

笑いたくなってきた。



もう、あたしの感情はぐちゃぐちゃだ。

だけど、弥生を守らないといけない。



「!!!」




階段から、薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が襲いかかってくる。

玄関からも来ているの!!?



もう嫌だ。


戦力にならないあたしと、

完全気を失った弥生。



お荷物のあたし達を抱え、次々と死なない血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)相手に、体に負担をかける外気功だとかいうものを繰り出す玲くんは――

舞うように、容赦なく敵を叩きのめすけれど。

本当に無駄なく、最低限の動きだけで、敵を捕らえ弾くけれど。



それでも――

玲くんの顔色が青いんだ。



どうしよう。


玲くんの呼吸が乱れている。

胸に手をあてている。



「芹霞、外に出よう」



階段を駆け下りて玄関に向かったが、案の定というべきか、破られた玄関のドアの隙間を塞ぐように、たくさんの血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が犇(ひし)めいていた。


ここから出られるわけがない。



「玲くん、確か居間を抜けた台所の先に、裏口があるはずッ」


あたしは、少ない脳味噌をフル回転させて、突破口の可能性を見いだした。


玲くんは頷くと、襲いかかる血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)をよけるように方向転換し、一緒に居間に走る。


あたしは居間に滑り込むと同時、体全体でドアを押さえた。


すると玲くんが壁際の、重そうなローチェストを引きずって移動し、ドアの前に防波堤を築いた。



でも――

時間の問題だろう。



がたがた揺れるドアに、チェストは少しずつ動いている。

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