ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「敵だったら、助けてやるなんて言わねえだろ、ぎゃはははは。だからって、味方だと思われても困るけどな」
「玲くんと弥生を本当に助けられる?」
向こうで蹲る玲くんが何か言ったが、あたしには届かなかった。
「"お前"は助けて欲しくねえの?」
「玲くんと弥生が助かるのなら、あたしはどうなってもいい。先に言っておくけど、別に自棄になっているわけじゃないから」
「随分と立派な献身精神じゃねえか。あまりに立派すぎて反吐が出る。ぎゃはははは」
「あんたには居ないの?」
「あ?」
「自分を犠牲にしても、助けたい人」
瞬間――
金色があたしに絡みついた。
その奥の闇が、一瞬揺らいだ気がした。
駄目だ。
今はこの闇の向こうを見てはいけない。
あたしは守るべき者が居る。
「そもそもあんたに、玲くんの、この"結界"を破れるの?」
「そんなの。"守護"だけで家ほどのもんでもねえし、こんなに弱まっているなら待ってれば自然に消えるさ。強行突破して見てもいい。
"絶頂期"の『白き稲妻』と相対しているわけじゃないからな。
……最終的な返事を貰うぞ、芹霞ちゃん。
お前は俺の条件を呑むのか?
内容さえ判らない、この俺の条件を」
あたしは金の瞳を見据えた。
迷いはなかった。
「ええ呑むわ。
だから玲くんと弥生を助けて」
悔しいけれど――
あたしにはそれしか縋れない。
あたしに出来ることは…
少しでも"可能性"を広げることだから。