ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「な!!!?」
俺は少しだけよろめいた。
「先刻から黙って聞いてれば、ごちゃごちゃごちゃごちゃッ!!
ご大層な忠犬面して、状況判断もできねえようなら、てめえぶっ飛ばして、そのちんけな脳味噌入れ替えるつもりだったよッ!!」
……はあ!?
「大体てめえは極端過ぎるんだッ!!
くせえ匂いつけて帰りやがって、昨夜は何処に居たッ!?
……朝からなんだあのあからさまな態度!!!
櫂様と居る芹霞さんのドアに聞き耳たてて、勝手に固まって、枕まで顔に食らって、挙げ句の果てに一人前に嫉妬して、不貞腐れたように櫂様と離れて座り、口を開こうともしねえッ!!」
桜には――
全て見透かされているらしい。
だけど。
「それで護衛役かよッ!!!
櫂様にそんなに早く気づかれたいのか、てめえッ!?」
だけど!!!
「お前に…何が判るよ!!!?
何で俺がお前にそこまで言われないといけねえんだよ!?」
俺もつられて怒鳴ってしまった。
俺だって悩んでる。
隠さねえと。
以前の状態に戻さねえと。
だけど思えば思うほど、焦れば焦る程……何が普通なのか、どう戻せばいいのか、判らなくなって混乱して。
だから櫂にもどう接して良いか判らなくなっている。
とりあえず距離をとって冷静にならねえと…そう思って離れれば、ますます今までどうやって近づいていたのか判らなくなって。
悪循環のしがらみから、抜け出すことは出来なくて。
何とかしようと思っても、
どうしていいか、判らねえんだ。
苦しいから、何していいか判らねえから、暫く行ってなかったネオン街まで"逃げる"始末。
逃げだと…十分に判っている。
だけど…身体が感じる快楽の果て、苦しみが一瞬、楽になるから。
何も考えずにいられる刹那の時間が持てるから。
ただ…それが欲しいが為に。