ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
髪質は細く…いわゆる猫毛で、若干癖毛。
――犬のくせに猫なんて。
桜の嘲笑にももう慣れたけれど。
――櫂って、羨ましいくらいにさらさらとした、綺麗な髪だよね。
そういう芹霞の髪だって、櫂と似たようなものだ。
凄く綺麗な黒髪だ。
櫂の――
さらさらとした直毛の、艶やかな漆黒色の髪に憧れる。
髪質は仕方がねえ。
ならば色だけでもと…、黒は櫂と被るから、せめて落ち着いた茶色に染めようと何度も試みたけれど、その度に芹霞に止められた。
――不良は家に上げないわよ!!
染髪=不良
いつの時代の発想だよ。
大体、この髪色の方が『不良』だろ。
――煌じゃなくなるから嫌い。
だから――
俺のコンプレックスは続行中だ。
櫂には――
男も女も囚われる。
だが、そんな櫂を捕えているのは芹霞で、芹霞自体は、櫂には囚われていない。
芹霞が囚われているのは、櫂の過去だ。
正直俺には、まだ出会っていねえ櫂の昔など、ぴんと来ない。
だけどその過去が芹霞にとってどんなに重要なのかは判る。
芹霞は櫂に遠慮するんだ。
随分と"永遠"を公言するくせに、櫂が高みに上れば上る程、芹霞は一線をひこうとする癖がある。
櫂が偉大なる紫堂の次期当主だから、と。
普段は阿呆タレのくせに、その部分だけやけに物分かりのいい、理解がある幼馴染みを演じる。
他の女のような、打算も計算もなく。
だけど、だからこそ――
それが、櫂を悲しませているのも知らずに。