ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
紫堂の特殊な裏事情。
幾ら何でも、もう芹霞も薄々気づいているだろう。
紫堂は普通の財閥じゃねえ。
今まで芹霞が知らずにいれたのは、芹霞が無意識に踏み込みを躊躇っていたのと、巻き込みたくないという櫂の配慮があったからで、特別俺は何もしていねえ。
判ったら判ったでいいし、巻き込まれたら守ってやればいい。
俺はそう思うんだけれど。
元々俺は…隠し事が得意じゃねえし。
8年もの幼馴染に大きな秘密作るっていうのも、フェアじゃねえ気がするし。
いっそもう時効だと、全開放してもいいんじゃねえかと思って、何度か櫂に言ってみたりしたけれど、櫂は苦笑するばかり。
長年の秘密の開示は、さすがの櫂にも躊躇(ためら)いがあるらしい。
その気持ちも判るから…俺はそれ以上何も言えずにいたんだ。
俺にも…開示ししたくねえ過去があるから。
――紫堂って…大変なんだね。
俺は知っている。
櫂の持つの秘密のせいで、更に妙な壁が出来…それによって芹霞は寂しがっていることを。
だけどあいつは――
櫂には弱音は吐けない。
櫂に助けは求められない。
あいつの矜持に賭けて、櫂を貶(おとし)めることはしようとしない。
櫂を本当に大切にしているんだ。
そんな芹霞を見ているからこそ。
いつからか俺は、こいつを守ってやりてえと思うようになったんだ。
そう…いつからか。