ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
芹霞とはよく喧嘩をした。
この俺に傷を食らわすくらいなのだから、芹霞だって相当の運動能力を持っていると思う。
何より怯まない。
怖じ気づかない。
さすが、緋狭姉の妹だけある。
その昔。
本当にあの頃の俺は、女にも容赦なかった。
緋狭姉の妹だから、さすがに芹霞を殺ろうとは思わなかったが、気に食わねえから簡単に手を上げた。
そんな俺だからこそ、芹霞も遠慮なく、渾身の力で俺を殴り返してきた。
ありえねえくらいの重い拳で。
回転ついた時もある。
それでも俺の方が強い。
だけど芹霞は――
無執着で短気な俺より、遙かに意地と根気がある。
どんなに顔が腫れようが、歯が折れようが、鼻血を出そうがお構いなく……俺が引き下がるまで何度も挑んでくる。
原因なんて些細なこと。
俺が野菜を残したからとか、口答えしたからとか、風呂場の使い方が汚いからとか、手伝いをしないからとか。
芹霞はまるで母親のように、煩く俺に付きまとった。
そうすることが、まるで使命かのように。
今思えば、その頃櫂は紫堂に入り浸りで、まだ俺も櫂の護衛をしていなかった。
だから芹霞は、櫂と距離のあいた寂しさに、ある種…荒れていたのかもしれねえ。