ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
ああ、何だろう。
先刻から昔のことばかり思い出してくる。
自分が危機に陥る時、
頭の中に思い出が走ると聞いたことがある。
何故今、そんなことを思うのか。
この胸のざわめきは、一体何なのか。
「無事でいてくれよ?」
前方に、小さな人影を見つけた。
「!!!」
居た。
返り血と自らの血で赤く染まった服。
裂かれて破られて、どんな凄惨な場に居たのかよく判る。
俺は思わず身震いした。
何で――
こんな姿にさせるまで、
俺は芹霞の側から離れていたんだろう。
何をぐだぐだしていたのだろう。
「芹霞ッ!!!!」
声が枯れるような、大きな声を張り上げる。
芹霞が足を引き摺りながら、その隣で胸を押さえ、よろついて歩く玲を支えていた。
玲は意識朦朧としているらしい。
『白き稲妻』と誉れ高い玲の服も、血で染まっている。
この男がこんな姿を晒すこと自体が、俺にとっては異常事態。
過去幾度か目にした戦うあいつは、
それは舞うように優雅で無駄なく強くて。
そして紫堂特有の超常能力。
あいつは電気を操れる。
体力だけが取り柄で、機械音痴の俺には、到底真似できない。
――電磁波には言葉があるんだ。
――プログラムコード。0と1の世界さ。
――"書き換え"は体力を代価にするから、出来るなら闘いながらはしたくないね。
――諜報専門だ。僕は紫堂の力を戦闘には使いたくないから。
――"結界"は緊急避難用。攻撃には転じない。もしもの時は救援に来てね。
――あはは。僕だって嫌だよ、"待つ"なんて情けないこと。だけどどうしても守りたい者が居たら、そんなこと言ってられないだろ?
心臓に――爆弾抱えていたなど、芹霞の電話がなければ、俺でそえ知らなかった事実。
今思えば、だから時間をかけた闘い方はしていなかったのかと、妙に納得出来るものだった。