ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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どれ程の時間が経ったか判らねえ。


気づけば俺は――

照り付くアスファルトにしゃがみ込んでいた。



もう芹霞と玲の姿はなく。



陽炎の彼方に…


消えちまった。



俺は確かに――


電話の先で躊躇していた。



倒れた櫂。

護衛の俺。

桜の言葉。



芹霞には玲が居た。


突っぱねばならねえ。

櫂を優先しないといけねえ。


それが俺の立場。


まだ…自覚したばかりなら、何とかなる。


このまま行けば――

幼馴染同士の…最悪の泥沼三角関係。


しかも俺が櫂に敵うことない…

完全"出来レース"。


消さないといけねえ俺の恋心。

あってはいけねえ、横恋慕。


櫂にとっては"裏切り"になる。

俺は…櫂を裏切りたくはねえんだ。


気持ちを押さえる為には、仕事を優先すべきだと、立場を弁(わきま)えるべきだと。


そう、桜も…玲より櫂を優先したのなら。

それがいつも玲が望んでいたことで、桜に言い聞かせていたことであったにしても、それがきっと客観的にも正しい選択で。


だから俺も、感情を"立場"で縛ろうとした。


冷静な状況判断を。

私情に囚われるな。


それが瞬時に頭に駆け巡り、躊躇となった。


それこそが既に私情に縛られていると…気づいた時には遅すぎて、


芹霞の置かれた状況は予想外に悪く、結果、その躊躇の代償は大きすぎた。



――幼馴染みは解消よ。



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