ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ぎゃはははは。俺にも愛護精神とやらがあるからよー、そんなうるうるした目で見られたら、戦意もなくなっちまう。ぎゃはははは」
耳障りな笑い声。
「子犬ちゃんに言っておくけどよー、芹霞ってのは犠牲精神の塊だ。潔くも――脆い。
これからどんな目に遭うのかも知らねえでよ」
途端、俺は男の胸ぐらを掴んでいた。
"どんな目に遭うのかも知らねえで"
何だと!!!?
「どういう意味だ、てめえッ!!!
……まさか芹霞に」
思考よりも何よりも、本能が危険を察知して、俺の心身に緊張をもたらす。
「おいおい、芹霞や『白き稲妻』を助けてやったのは俺なんだぜ?」
「ああ!?」
「と言っても今日の処は、時間が経てば勝手に収まるものだったから。血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)も呪詛もな。そのうち紫堂櫂も目覚めるだろうぜ?
『白き稲妻』に限っては、持病があるらしいから、回復には多少時間がかかるだろうが、あの家で寝てれば問題ないだろ。
まあ、"時間制限"を知らない奴には、永遠の地獄のような時間だったんだろうけど、手の内見せれば、その時間にただ生き残ってさえいれば全て丸く収まっていたわけよ。
あ、でも死じまってたら終わりだがよ、ぎゃははははは!」
胸ぐら捕まれたまま、愉快そうに男は笑う。
「飼い犬の涙なんて、いいものを拝ませて貰ったよ、ぎゃはははは」
「泣いてなどねえ!」
屈辱に俺は怒鳴った。