ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――玲くんと弥生を助けて。
あの時――
道化師は極悪な笑いを作り、鉤爪をきっちりと嵌め直して、疾風のように部屋を駆け巡り、血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)を鉤裂いた。
玲くんの動きは、舞うように優雅で、それでいて急所への打撃は鋭く、的確だと思う。
玲くんは、間違いなく強い。
ただ――
玲くんの闘い方は対人間だ。
その過程で対象を破壊することがあったとしても、根幹は破壊目的ではない。
だから人間という仕様を考えた上で、最低限の効率的な一撃を与えている気がする。
道化師の闘い方は、対非人間だ。
モノには逡巡(ためらい)が必要ない。
壊せればいい――それが全て。
だから――
どんなに玲くんよりも動きが雑で荒くても、速度だけが取り柄でも、破壊という結果については、玲くんに勝っている。
あの鉤爪。
血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)を消滅させられるあの武器は、本当に唯の武具なのか。
あたし達を苛んだ血色の集団が、瞬く間に一掃された時、玲くんが倒れ込む。
同時に、青の結界も消えた。
道化師は、慌てふためくあたしに歩み寄り、親指の爪程の大きさの、肌色の絆創膏を渡した。
――様々な薬効……ニトロも染みこんでるパッチだ。重症な心筋梗塞とかになっていなければ、即効に回復出来る代物だ。
――だから俺は医者じゃねえ。俺だって万が一の事態に備え、一種の気付のようなもので携帯してるさ。
あたしは玲くんの元に駆け寄り、白いニットシャツを捲った。
意外に筋肉のついた、逞しい白い胸板が露わになる。
――何顔赤くしてるんだよ、エロ女。
笑う男を完全無視してパッチを貼ると、玲くんの苦渋の表情が柔らかくなった気がする。
――途切れ途切れでも意識は戻るはずだ。少し経てば、何とか歩けるくらいは回復するだろう。とにかくま、呪詛は立ち消えたから、これ以上、あいつの体に負担をかける事態はない。家で寝てれば治る。