ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
そして――
――ダチを助けたいんだろ?
頷くあたしに、道化師は耳障りな笑い声響かせて、白い長丈の服から何かを取り出した。
錠剤だった。
男はそれを、仰向けた弥生の口に押し込み、顎に手を置いて、体を反らせた。
反射的に飲み込んだようだ。
――ま、解毒剤みたいなもんだ。
やがて――
弥生の腕から痣は消えた。
――変貌前ならこれで何とかなるがよ、一度兆候見せ始めると効かねえ。狩るしかねえ。
この男――
――出来るだけ早く俺が見つけらればいいんだがよ、そうもいかなくてな。
意外とまともなのかもしれない。
――はあ!? 俺が殺戮者!? 血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が人間襲わねえよう、狩っていたの、判ってなかったのかよ!?
判るはずないじゃないか!!!
あたしと男は、違った意味で2人で驚きあった。
それなら最初から、そういう態度で接して欲しい。
もっと警戒心を抱かない、そんな接し方をして欲しい。
そう訴えると、男はぎゃははははと、例の笑い声を長く響かせた。
――あいにく俺は、善人なんかじゃねえ。
確かに、善人は櫂のアバラを外さない。
――ああ、紫堂は別だ。
金色に…確かに点った憎悪の炎。
彼の闇はより深く。
よくその紫堂の御曹司の幼馴染みに、そんなことぺらぺら話せると嗤ったら、
――お前は闇側の人間だから。
意味不明なことを言った。
――血染め石(ブラッドストーン)だろ?
男は、あたしの胸を指さした。
以前氷皇にも言われた。
あたしはその意味が判らない。
――どれだけ闇に染まってる?
更にこの男の言う意味が、てんで判らない。
判らない尽くしのあたしを見て、男はぎゃはははと笑う。
――お前は面白い。
そしてまた笑い続けた。