ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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乱れた漆黒の髪。

閉じられた切れ長の目。


随分苦しんだのか、端正な顔は僅かに苦しそうだ。


それでも――

寝息が規則正しいのが嬉しい。



――櫂様が倒れられて。


倒れたと聞いて、心中穏やかではなかった。


8年前以前は、病弱でいつも倒れていたけれど…変貌してからは、こうした風景はまず見ることはなかった。


変貌と同時に健康優良児になったはずの櫂なのに。


あの櫂が倒れるとは…

よっぽどのことだったんだろう。


余程苦しかったんだろう。


そんな一大事の時に、傍についていられなかった自分が口惜しい。


「早く…よくなるんだよ?」


櫂の寝顔を見るのは、随分と久しぶりな気がする。



――芹霞ちゃあああん!


昔は毎日のように、抱き合って一緒に寝ていた。


今の櫂は、提案しても断固拒否する。


それでいて、寝ているあたしの部屋にはよく来る。

今日など、寝ぼけているあたしに、ちゅうまでやらかした。



――芹霞ちゃんだあい好き!!

――あたしも櫂がだあい好き!!


まあ、昔は、よくちゅっちゅしていたけれど、流石にこの歳でそれは…いただけないだろう。


それくらい、あの櫂なら判っているはずなのに。


一体、何を考えているのだろう。

寂しっ子モードなんだろうか。


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