ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「……賭けって何です?」



玲が、急須で煎茶を茶碗に注ぎながら、ひきつった顔をして訊いた。




「御子神祭開催時、どちらの手に芹霞が居るか」




「はあ!?」


煌が素っ頓狂な声を出した。


「私達が戦っても面白くない。だから、私達は動かずして、"駒"を動かすことにした」


意地悪い笑み。



「私を賭けに勝たせろ、坊」



前と同じ台詞を言い放った。


「あいつは"駒"を使って芹霞をお前達から奪った。だから奪い返せ。私を文無しにさせるな」


本当に真剣な眼差し。


「現役復帰すればいいでしょう?」


俺は呟いたが、



「面倒だ」



緋狭さんはばっさり切り捨て、婉然と笑う。




「煌、お前行け」




「ああ!?」




煌が反抗的に顔を歪めた。



「お前、元から行くつもりだったんだろう?」



「だ、だけど、それは別に緋狭姉の為じゃなく」


「ほう、お前は私を路頭に迷わせたいか」


すっと、緋狭さんの目が細くなった。



「だ、だから働けば……」


煌は若干引き気味だ。




「私は未成年たる芹霞とお前の保護者だ。私が路頭に迷うということは、必然と芹霞もお前も路頭に迷うことになるが、それでいいんだな? 橋の下暮らしでもいいんだな?」


煌の言葉は届いていないらしい。


「い、いや……でも俺、仕事してるから、多少は蓄えがあるし……」


「じゃあ、私を満足させられるんだな?」


「た、蓄えは多少程度で……」


「させられるんだな?」


何を想像しているのか、欲深い悪女の顔。

煌は、本当に泣きそうな顔をして項垂れてしまった。



「行くな、煌?」



私の為に。

力なく頷いた煌に、緋狭さんは豪快に笑った。

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