ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「俺じゃ駄目ですか?」
俺は訊いてみる。
「駄目だ」
冷たい眼差しが返る。
「子供の喧嘩に親がしゃしゃり出るな、しらける」
「親?」
「ああ。お前は煌の飼い主であり、父親だ」
何とも、複雑な心境だ。
「煌を行かせろ」
威圧的な黒い瞳。
そしてその瞳を、煌に向けた。
「煌。アレを解いてやる」
「本当か!?」
煌の顔が明るくなった。
「ただし今だけだ。未熟なお前にはまだ必要だからな」
「…… 判った」
煌は神妙な顔をして頷いた。
玲は溜息をついて、煎茶に手を伸ばす。
桜は唖然としたままだ。
話は、勝手についてしまったのか。
彼女中心の空気。
今に限ったことではないけれど。
「しかし芹霞も罪な女だ。
姉はどうだ? 薔薇色の天国に誘ってやるぞ?
私もまだまだ現役だ、昼夜枯れ果てるくらい搾り取って、目眩(めくるめ)く快感を……」
「緋狭姉、黙ってろッ!!!」
煌は顔を赤く染めて、怒鳴った。
俺も含め、皆緋狭さんと目を合わそうとしない。
否、合わせたくない。
合わせたら最後――餌食になる。
誘われるのは天国ではなく、地獄だ。