ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
緋狭さんは、口元だけで笑う。
「つまらんな、坊は。顔色1つ変えん」
「お褒め頂き、恐縮です」
そして彼女は、突然俺の胸倉掴んで俺を引き寄せ、耳元で囁いた。
「あのこと。
妹に言ったら、どうする?」
――やっぱり。
一瞬――
想像してしまった。
それが彼女の罠だと判っていながら。
もしも――
芹霞が"あのこと"を。
「!!!」
駄目だ――。
俺から急速に血の気がひくのが判る。
「たわいないのう、お前達は」
緋狭さんは本当に満足そうに大笑いすると、一升瓶を持ってすくりと立ち上がった。
「一旦私の家に戻るぞ、煌。準備に時間がかかる」
「あ、ああ?」
「邪魔したな、坊。
……暴走するなよ?」
それは――
「元より、私が蒔いた種だ」
芹霞の瞳にも似た――
「いざとなれば、私が刈り取る」
真っ直ぐな強い瞳。