ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――いいか坊、よく聞け。
俺は全てをこの瞳に託した。
彼女が居なければ今の俺はない。
――お待ち下さい、当主。
「攫ったのが道化師(ジョーカー)なら、ひとまず妹は大丈夫だ」
『道化師』
やはり彼女は判っている。
「根拠は?」
思わず、俺は訊いた。
「玲を救ったからだ」
じっと彼女を見つめる鳶色の瞳。
「それは……"命"だけの保証ですか?」
玲は静かに聞いた。
「玲。何故"道化師"という名だと思う?」
「……?」
「名付けたのはアオだ。男の矜持に固執して笑い続ける空虚な金色は、アオを愉しませる"愚かなピエロ"だとな」
緋狭さんは、何かを知っている。
「芹霞が"芹霞"である限り、いやそれ以上の絶対的理由で、女としての芹霞の貞操は守られていようよ」
俺は目を細めた。
絶対的な理由?
「但し。馴れ合いはアオが好かん。あいつの気分を損なえば、また状況は変わってくるだろう。そういう意味では悠長な時間はない」
「俺が救出します……させて下さい」
俺は彼女に懇願する。
「呪詛如きに倒れた男が何を言う。解呪方法も判らぬくせに、しつこく吠えるな」
彼女は鼻で笑い、玲に向き直る。