ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「玲。お前が今日、久方の発作を起こした直接の契機は何だ? まさか過激な運動量など言うではないな?」
鳶色の瞳が細められる。
「やはり呪詛は……僕にも?」
緋狭さんはすっと目を細めて言った。
「坊と同じ血を引いていたのが不運だったな。
お前はお前の得意分野で、早々に『呪詛』を詰めよ。『呪詛』を長引かせると、坊は永久に、結界を強めたこの家から出られん。出た途端、『呪詛』は発動されるだろう」
そして彼女は俺を見る。
「坊。不思議には思わんか。何故元老院が紫堂に命じたのが、忌まわしき黒の書ではなくその行方を知る小娘の回収なのか。坊は黒の書の所在をどうみてる?」
「今は御階堂の手に」
「ありえん。何故ならあれは――8年前、私が燃やしている」
「え?」
「私がそんな不安愁訴を残すはずなかろう。一切合切、関係書類も全て燃やし尽くした。それは元老院も知っている。
では、小娘の回収理由は?」
「緋影故。即ち、血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)……8年前の『生ける屍』の再現……?」
「確かに緋影の小娘だ。だがその論は破綻しているのを判っておろう。黒の書なくとも既に血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は出現しているのだ。その上で何故に元老院は緋影の小娘が尚も必要か、元老院の意図そのものを考えてみよ。
坊。推測と事実の境界を見極めよ。
8年前と現在の ERRORを看破せよ。
そうすれば、自ずと『意思』が見えてこよう」
「緋狭さん。昨夜は旅……ではないですね?」
彼女は艶やかに笑った。
肯定するように。