ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――どこの世界に、てめえの女を横から掻っ攫われて、土産持たせる馬鹿がいるかよ。
あたしは溜息をつく。
あんたも大したことないね。
やっぱりあたしをそこいらの女と同じにするんだ。
あたしは誰の女でもないわ。
そんなの皆に失礼よ。
――やっぱりお前は面白い。
男は笑うとあたしを肩に担いで、空高く舞ったんだ。
もっと丁寧に扱えないのかと文句を言ったら、
――そこいらの女のように、お姫様抱っこでもしてやろうか?
あたしはムッとして口を開くのを止めた。
この男は、もう恐怖の対象ではない。
何だかとても馴染んでしまった。
不思議と楽しいこの感覚は、
あたしは嫌だとは思わない。
あたしの大切な者達を救ってくれたから。
ちゃんと助けてくれたから。
同時に失った者も居るけれど。
夜風はとても気持ちよく。
だけど心は気持ち悪くて。
本当に気持ち悪くて――
――はあ!? 酔った!?
途中、24時間営業のドラッグストアで酔い止めを求め、
――金、持ってないだと!?
憤る誘拐犯に渋々と薬の代金を支払って貰い。
そこからは虚ろな世界。
薬の効きが遅くて、金色男の肩に吐きまくり、こっ酷く怒られた気がしたけど、
――仕方がねえな。お姫様抱っこしてやるから、これでも被って大人しく寝てろよ?
意外に優しい道化師は、公園の噴水でぶつぶつ言って自分の服の汚れを洗い流した後、それをあたしの体にふわりと被せ、意外に整った顔を緩ませた。
本当に意外すぎる場面の連続で、
少しばかり愉快な気分になった。
――優しい!? 犯すぞ、てめえ。
口を直してくれたらいいのに。
その口、最悪。
――本当、調子狂う。
そんなぼやきは、やがて消えていった。
月が照らす金色が、とても綺麗に煌めく…そんな夢の彼方に。