ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 

「さてと」


あたしは改めて部屋を見渡した。


いらないものを大処分したら、残るものは殆どない。


無機質な石灰(コンクリート)で覆われた、灰色の箱。


窓もない。


あるのはベッドとドア1つ。



まるで…監獄のよう。


温度が何もないんだ。



「ここ、住宅?」


だとしたら、悲しい。



「昔は、『研究所』って呼ばれていた」


その単語によからぬものを感じるのは何故か。


「じゃ、ここに研究員とか人が居るの?」


「誰も居ねえ」


「ああ、あれね? 廃屋だから勝手に住んじゃえっていう奴ね?」


「俺は、ここ育ちだ」


金髪男は、嘲るように笑った。


「お父さんは? お母さんは?」


「居ねえ」


「じゃ友達……居るはずないね」


「失礼な女だな…」


「ねえ。ここから出て行こうとか思わなかったの? ここは冷たくて寂しすぎない?」


「出られない"運命"だ」


思いの他…綺麗な顔を苦渋に歪めさせて、金髪男は抑揚ない声で言った。


あたしにとって運命とは――

大切なものを護りぬくことで。


"永遠の約束"


それはあたしにとっての誇りで。

それは喜悦するもので。


悲しむべきものじゃない。

苦しむべきものじゃない。



「俺は…"運命"から逃れられない」



そんな悲哀に満ちた顔は、まるで――


「馬鹿だね」


小さく震える子犬のように。



あたしは小さく笑った。


  
「ねえ……もがいたの?」


「あ!?」


「全力で"嫌だ"って抵抗した?」



金色の瞳に何かが揺れる。


ゆらゆらと。


それは…否定的な動揺で。


だから確信するんだ。


「……諦めてるんでしょう。最初から。どうにもならないことだと、変えることは出来ないと、最初から諦めちゃったんでしょう?」


「!!」


詰るように食らい付いてくる金色の瞳。


お前に何が判るのか。


言葉に出ずとも、それくらいは読み取れる。



「今在る立ち位置が、自分の望んだ"運命"じゃないのなら。


今のあんたは偽者……


――ERRORよ」

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