ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「お前、俺が善人に見えるか?」

「見えない」


即答には自信があるから。

だけど、悪人にも見えないんだ。



「"判って"いながら此処にきたのは、お前の意思だ。

当然こんな場面は想定内だったろ?」



漠然とだけれど、想像してなかったわけではない。


それでも。

玲くんと弥生を助けてくれた男だから。


ありえない、そんな気がしてた。

 
「そ、そういうのって、恋人の行為でしょう?」



すると男はぎゃははははと笑い出す。



「愛がなくとも男は盛れるんだよ。お前の周りの男達だって、ヤることはヤってるだろうさ」


確かにお年頃。


更に顔もスタイルもいい、モデルも吃驚の超美形だ。


その気になれば相手には不自由しないだろう。



野性味溢れた煌の顔。

……性少年万歳。


女物の香水と真っ赤な顔がどうしても矛盾しているよね。



端麗な白い顔。

……未だ謎の過去を持つ玲くん。


自分の恋愛話、いつも誤魔化すよね。



切れ長の目を持つ端正な顔。

崇高で威厳に満ちた幼馴染み。

軽々しく女を寄せ付けない孤高の次期当主。



……櫂はそんなこと、



………。




――お仕置きだ。



昔してたのは可愛い、ほっぺの"ちゅう"。


親愛なる"ちゅう"とはまた違う"お仕置き"。


完全にあたしを翻弄した"ちゅう"。



………。



あいつの"ちゅう"……

慣れてなかったか?



――俺の理性に感謝しろよ?



"ちゅう"だけではない。



――たまには……いいだろ?



あいつはいつも余裕で……。




……なんで、余裕?

何であたしは余裕がない?




経験の、差……?




「芹霞ちゃんよー」



――愛がなくとも男は盛れるんだよ。




はあああ!?




「他のこと考えられてるなんて、

随分と…余裕だよな」


不機嫌そうな苛立った声が、あたしの思考を切り裂いた。



"余裕"


今のあたしにその単語は禁句だ。

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